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名古屋大学日本法教育研究センターでの勤務を通じて

名古屋大学日本法教育研究センターでの勤務を通じて

氏名: 吉川拓真 Yoshikawa Takuma

経歴:

2016年〜2021弁護士

2020年~2024年 名古屋大学法学研究科特任講師

現職: JICA専門家日本での就労機会を活用した産業人材育成プロジェクト

日本法教育研究センターでの勤務

2020年から2024年2月まで名古屋大学法学研究科の特任講師として、タシケント国立法科大学に所在する名古屋大学日本法教育研究センターにおいて、日本の憲法・民法の講義や論文・研究計画作成指導をしていました。

ウズベキスタンで苦労したこと

タシケント国立法科大学はウズベキスタンの最難関大学の一つです。名古屋大学日本法センターに入る学生もまじめで学習意欲が高い者が大半です。授業は週5で毎日2時間です。法学の授業はすべて日本語で行うので、学生は授業についてこれるように必死になって日本語を勉強します。学生同士の絆は強く、先輩が後輩に日本語や法律について教えたり、夜遅くまで一緒に勉強している姿を日常的に見ていました。人懐っこい学生が多く、毎日のように彼らと楽しく過ごしました。

苦労したことは、法学教育そのものです。日本とウズベキスタンでは法学教育の内容が全く異なります。ウズベキスタンでは教わったことを覚えることが重視され、法解釈などの法的思考力を鍛える機会は多くありません。覚えることは得意でも応用は苦手です。また、研究計画や論文の書き方指導もほとんどなく、指導できる人材も稀有です。学生が論文作成に必要な工程や日欧米で求められる水準を把握することは困難で、良い論文・研究計画を書くことに苦労します。せっかく優秀な学生が集まっていて学習意欲も高いのに、ポテンシャルを活かしきれておらず歯痒く感じる毎日でした。

ズベキスタンの課題とポテンシャル

法科大学を見ていて課題だと思うことはたくさんありますが、特に気になるのは根拠や論理的一貫性が軽視されていることです。法科大学の教育でも裁判実務でも法学論文においても、結論が示されてもその根拠が明示されることは乏しく、仮に根拠が示されている場合でも法的根拠や妥当性に欠けることが多いです。この背景には、ソ連時代に法学教育を担っていたロシア系・ユダヤ系の人々がソ連崩壊後ウズベキスタンを去ったことに伴い、法学の理解・知識が不十分な人々が教員とならざるをえなかった事情があると指摘されています。昨今は海外留学経験者が教員となる例も増えており次第に変わりつつあると期待している一方、学生が日欧米の大学院で飛躍的に成長するための基礎体力をつけられる教育環境を法科大学は現時点では提供できていないのが現状です。

私が分かるのは法科大学の(部分的に垣間見える)実情だけですが、どこの教育機関も似たり寄ったりではないかと思います。現状の法学教育に問題意識を持つ日本法センターの修了生たちが精力的に教科書の出版や日本法の教科書の翻訳などをしています。修了生の中には日本の大学で教授職に就く者をはじめ、日ウズの様々な業界で活躍している人材も少なくありません。他の分野でも彼らのように志が高い人々がきっといるはずなので、時間はかかると思いますが、希望は持っています。

ウズベキスタンを訪問予定の方々向けにメッセージ

(元の原稿では今以上に)勤務を通じて感じた不満ばかり書いたので、事前に読んでもらった教え子にはウズベキスタンの課題しか書いていない!と指摘されてしまいましたが、この国は治安もよく、交通マナーの悪さには辟易しますが生活面で不安を覚える機会は少ないです。日本法センターで出会った人々と過ごした日々はかけがえのない財産となりました。学生たちが今後羽ばたいていくことには大いに期待していますし、楽しみでもあります。

名古屋大学日本法センターはウズベキスタンのほかにベトナム・カンボジア・モンゴルにもあり、毎年各国の学生が集まって論文の発表会を行いますが、学生の日本語力や法的思考力はさほど変わりません。人材という観点からすると、東南アジア等と比べて何かが大きく異なるという印象はなく、結局のところ、よい縁・よい出会いに恵まれるような仕組みやコリドーを構築できるかだと思います。現在はJICA専門家として「日本での就労機会を活用した産業人材育成プロジェクト(ウズベキスタン)」に関わっているので、ウズベキスタン人材に関心を持たれた皆様に良いご縁を提供できるよう、プロジェクト活動に力を尽くしていきます。

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